本研究の目的は、グローバル化時代のインフォーマル経済に注目しながら、バリューチェーン(Value Chain)分析を、経済的側面、制度・社会的側面の両方から実証的に検討することである。平成21年度までの調査から、近隣アジア諸国に対する輸出が伸びて来ていること、また、一部の零細・小企業は、アウトソーシングや移民労働者の雇用を行いながら、低級品市場での競争力を維持していることが明らかになった。平成22年度は、それらの企業の競争力を考察するために、各工場での調査や靴産業組合等におけるインタビューを中心に進めた。 明らかになった点は下記の通りである。従来、靴産業はグローバル資本(主に大企業)、タイ系地場資本、零細資本が生産する商品、対象とする市場は明確に分かれていた。ところが、国際的な労働集約産業の立地の再編と、欧米大手ブランドの委託生産先の移転(ベトナムなどへ)に伴い、その境界が曖昧になって来ている。具体的には、技術の継続性の観点から早急なレイオフを回避しようとする大企業による低級品市場への部分的参入とそれに伴う競争の激化である。また、国際的な競争が激化する中、一部の大手企業を除いては、川上部門(原材料、部品、鋳型の製造など)を輸入に頼っている現状に対する早急な対応が必要となってきている。一方で、零細・小企業に対する個別調査では、競争の激化や原材料の価格の高騰といったマクロ市場の変化の影響を受けてはいるものの、むしろより深刻なのは、タイ人労働者、特に技術を持った労働者の不足であることが明らかになった。小規模企業の中でもこれまで順調に生産規模を拡大してきた企業の中には、不足する労働者の調達のため、国境地帯などに移転する、もしくはアウトソーシングを活用する企業が出て来ている。
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