本研究課題は、諸外国にはない日本独自の制度である経営者による予想利益の公表制度に着目し、その予想利益を残余利益評価モデルという企業価値評価モデルにインプットして株式価値を推定し、そうすることで現在割高、あるいは割安になっている銘柄を識別することができるかどうか(将来リターンを予測できるかどうか)にもとづいて経営者の公表する予想利益の有用性を判断するというものである。本年度は、経営者予想利益データと株式リターン・データの整備を行った上で、上記の研究課題に取り組んだ。その結果、経営者予想利益をインプットした企業価値評価モデルを利用することによって現在割高、あるいは割安になっている銘柄を識別することができ、実際に将来リターンを予測できることを発見した。経営者によって公表される予想利益は、しばしば彼らの私的な理由によって過度に楽観的、あるいは悲観的なものであり、投資者の誤った投資判断を引き起こすと非難されがちである。しかし、本研究でえられた結果は経営者予想利益に投資意思決定上の情報価値があり、投資者の企業価値評価にとって有用な情報であることを裏付けるものである。さらには、日本独自のこの制度が導入目的(投資者の合理的な投資判断を促す)を充足していることを再認識させるものでもある。また、本年度はなぜこのように経営者による予想利益を利用することで将来リターンが予測可能になるのかについても検討を行い、それは市場のミス・プライシングに起因するという証拠もえられた。これらの研究成果を取りまとめ、ファイナンスとインベストメントに関する邦文機関誌「現代ファイナンス」へと投稿し、査読制度を経て採択され、掲載の運びとなった。また、今年度11月には神戸大学経済経営研究所の兼松セミナーにて研究成果についての報告機会をえて、本研究課題の発展性についてセミナー参加者と有益な議論を交わすこともできた。
|