多元環上または代数多様体での鎖複体の圏に於ける完全鎖複体は、加法圏において対象の直和へ写像の値域が有限直和の範囲に収まっているというコンパクト対象の性質を持っていることが非常に有用である。フロベニウス多元環や、可換コーエン・マコーレー環上の加群の導来圏の商圏として、加群の安定圏が得られることは、リッカルド、ブッフワイツなどによって示され、そこでのコンパクト対象がどのようなものかを研究することも重要になってきていた。また、加群の圏において有限生成加群がコンパクト対象であることは周知の事実として知られ、加群の圏どうしが同値となる森田同値をみたすことと有限生成加群の圏どうしが同値なることが必要十分であることは森田の理論として知られていた。しかし、加群の安定圏においてはそれに対応するものが無かった。そこで完全環おいては加群の圏、安定圏の両方の圏においてコンパクト対象は有限生成加群であることを示し、有限生成加群は圏論的な性質によって不変であることを示した。これにより、森田の理論と同じように完全環上の加群の安定圏どうしの圏同値が有限生成加群の安定圏どうしの圏同値を導くことを示した。また、圏同値が存在する場合、導来圏においては傾斜鎖複体、加群の圏では射影生成加群という圏同値を導く対象が存在するが、安定圏においてはそのようなものが存在するか一般にはわからない。フロベニウス多元環上の加群の安定圏は三角圏になっていることを使って、有限生成加群の安定圏どうしの圏同値から、加群の安定圏どうしの圏同値を導くという安定圏での森田の理論の類似が成り立つことを示した。
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