2009年度始めに提出した研究実施計画で述べたとおりM.ネーターとP.ゴルダンの論文「Ueber die Algebraische Formen」の解明は、ほぼ完了しそれを講義録という形で出版するための作業をすすめている。連立の「自己消滅型微分方程式」は、変数が分解する場合は、解を具体的に構成できることが証明できた。これは、ゴルダン-ネーターによる「5変数のヘシアンが消える多項式」の場合の一般化になっており強いレフシェッツ性をもたないゴレンスタイン環の解明に大きく寄与するものと期待できる。この理論は、可換環論に止まらず、きわめて広範囲の応用をもっており、たとえば(1)渡辺敬一氏によるF-thresholdの研究(2)非ユニモーダルなゴレンスタインベクトル(3)超平面配置(4)高次ヘシアン(5)イデアルのホモロジーなどに関連している。また、対称群が作用する完全交叉環が、強いレフシェッツ性を持つゴレンスタイン環の例として大量に構成できる。上記(3)については、2009年、北海道大学で開催された超平面配置の国際シンポジウムであったHenry Schenk氏と情報交換している。 また、自己消滅型の微分方程式に関連しては、3変数の連立ベキ和多項式がどのような場合に完全交叉になるのかという未解決問題について、手がかりをあたえている様におもえる。すなわち、ベキゼロ偏微分差要素から構成できる、多項式環の自己同形を用いてベキ和多項式を変形することで、本質が見えるのではないだろうか。このことを、首都大学の黒田氏とハノイ大学のGyuen Dung氏に提案した。
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