p進対数一次形式の下からの評価から、abc予想のより良い評価を得ることが、この研究の目的である。そのために、通常の指数関数の逆関数である対数関数ではなく、p進楕円関数の逆関数であるp進楕円対数関数を用いて、対数一次形式の下からの評価を求めている。まずは2個のp進楕円対数を考え、その代数的数係数一次形式のp進付値の下からの評価を考えた。今迄の評価を改良して、代数的数の高さに関する最良近似に至らしめたが、その主な手法は行列補間法と、楕円関数から楕円対数関数への変数変換を楕円曲線のFormal Group上でおこなったということである。種々のデータに依存する評価の定数部分を完全に決定し、全て具体的に数値で表すことに成功している。実際の計算はp進解析の諸性質に基づいておこなわれた。また、岩澤の対数関数を用いたYu Kunruiのp進対数一次形式の結果の類似を、p進楕円対数関数に関しておこなうことも出来た。岩澤の対数関数の場合は、全平面での解析接続が可能であるので通常のp進解析関数の持つ困難さが回避できる。これについては現在論文執筆中である。2009年度中に発表した論文は、p進ではないアルキメデス付値における楕円対数一次形式の下からの評価についての最良近似であり、S.Davidとの共同論文である。ここでは楕円関数の逆関数である楕円対数関数を微分形式の形式積分としての級数で定義し、各係数の高さをうまく評価したことが成功の本質的な理由である。なお、2個のp進楕円対数のみならず、一般n個のp進楕円対数の代数的数係数一次形式に関する評価も現在計算しており、これが出版されれば、代数体で定義された楕円曲線でMordell-Weil群の基底のわかる場合のS整数点の計算が、常に可能となる。実際にS整数点を求めるにはreduced boundの手法が用いられる場合に帰着させる必要がある。
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