研究概要 |
正標数の代数多様体においては、コホモロジーの小平消滅定理が成立しないことはは、1978年のM. Raynaudの代数曲面の反例などによりよく知られており、向井茂による高次元代数多様体への拡張や、Peter Russelや武田好史らによるp-closed微分形式による反例構成法などが研究されてきている。これらはいずれもH^1(X,L)が自明にならないような偏極多様体(X,L)の構成法を考察したものであった。我々はこの問題をgeneralized Cohen-Macaulay環の局所コホモロジーの観点から捉え直した。すなわち、Raynaudが構成した偏極曲面(X,L)を一般化したクラスを考え、それに対してコホモロジーH^i(X,L^n),i,n ∈Z,を考察した。 i=2の場合は線織面上の直線束のコホモロジーとして表され、その結果、消滅次数nの下限の評価が得られた。i=1の場合は、線織面と曲線上のある種のベクトルバンドルの1次コホモロジー、特に重要なn<0の場合は、曲線上のベクトルバンドルの大域切断だけで書き表すことができ、これよりH^1(X,Z^n),n<0,の非消滅次数nの比較的良い評価が得られた。i=0の場合もi=1と同様の計算結果と、消滅次数の上限についての一定の評価を与えることができた。 以上の結果は、Krull次元3の切片環の局所コホモロジーの消滅次数の評価として読み替えることができる。また、上記小平消滅定理の反例は、すべてMumford-Szpiro型の直線束Lを考えているが、Raynaudの方法を詳細に調べた結果、Mumford-Szpiro型とは異なる直線束のクラスが存在し、それらもまた小平消滅定理の反例となることを発見した。
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