研究概要 |
積分不可能平面場に対してエントロピーの概念を導入する考察を行なった。 歴史的にはエントロピーは最初に力学系に対して定義された。1988年にGhys-Langevin-Walczakはその概念を葉層構造に対して定義し,葉層の複雑さを反映する不変量であることを示した。そして2005年Bisが初めて積分不可能平面場へと拡張した。しかし彼の論文には正のエントロピーをもつ積分不可能平面場の例は挙げられておらず,また,典型的な積分不可能平面場である接触構造についてはエントロピーは常に消えてしまうという無効性のみが示され,定義はされたもののエントロピーは積分不可能平面場に対して有効なのかという大きな疑問が残った。本研究ではこの疑問を解決する方策を見出した。着目したことは,第1に積分不可能平面場においては2点のseparationの概念が2点に対して平等ではないという事実である。すなわち,点Pから見ると点Qはseparateしないが,逆に点Qから見ると点Pはseparateするという非対称な現象が起こりうる。第2に積分不可能平面場においては1点の近傍を周回する積分曲線を使うことで局所的にもseparationが起こってしまうという事実である。これら2つの積分不可能平面場特有の事実を踏まえ,エントロピーの定義に更なる改良を加え,位相的性質との関係が捕らえやすい形に変更した。そして,4次元多様体上の積分不可能平面場であるエンゲル構造のうちの或る種のものが,正のエントロピーをもつことを示した。現在これらの結果を精密化中であり,論文を準備中である。研究分担者諸氏には接触微分同相,射影流,双曲多様体等に関する考察において協力を仰いだ。
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