さまざまな幾何学的な対象のモジュライ空間はシンプレクティック商、あるいはその類似物であるハイパーケーラー商として構成される。そのため、これらの商空間のトポロジーは30年以上にわたり研究されてきた。特にKirwanはモーメント写像のノルムの2乗によるモース理論を展開して、シンプレクティック商のべッチ数を与える帰納的を公式を与え、さらにそのコホモロジー環を研究する基礎を築いた。 ところが、ハイパーケーラー商はその非コンパクト性のため、ハイパーケーラーモーメント写像のノルムの2乗はプロパーな関数ではない。そのために、この関数にただちにモース理論を適用することができず、ハイパーケーラー商のトポロジーについての一般的な性質はほとんど知られていない。本年度は、トーラスによるハイパーケーラー商のトポロジーを研究した。ハイパーケーラーモーメント写像のノルムの2乗はプロパーでないにも関わらず、ある場合には、この関数の勾配の精密な評価をすることにより、プロパーである場合と同様にモース理論を展開できることを示した。さらに、この関数の臨界値集合におけるモース指数や、この関数の減少方向の定める法束の同変オイラー類が、ある特別な性質を持つことを見出した。その結果、トーラスによるハイパーケーラー商のべッチ数が、シンプレクティック商の場合よりも、組織的に決定できることを示した。さらにある条件のもとでコホモロジー環の構造も決定した。
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