研究課題の中心的な目的である「理想境界における群作用の力学的構造の研究」への応用を念頭におき、位相力学系的考察(鎖回帰的集合の測度論的な大きさ)および微分方程式的考察(差分方程式の周期解の存在)についての研究をおこなった。位相的力学系の立場からの研究としては、周期的ではないが、もとの位置のそばにもどる挙動をする点たち(擬軌道を含む)に着目した。特に、局所的に良質な空間(多様体、多面体などを含む)上においてその性質をもつ点の集まりの集合(鎖回帰的集合)の測度論的点からみた大きさと写像空間における通有的性質についての研究を行った。微分方程式の立場からの研究では、 差分方程式において厳格に回帰的な点(周期解)の存在性の考察を行った。 具体的な研究成果は、以下の通りである。 1.(横井)nを自然数とする。n次元(n-1)局所連結空間とその空間の孤立点上にはアトムが存在しない有限ボレル測度μにおいて、一様距離が定められた自己写像空間のほとんど全ての写像について、その鎖回帰集合はμ-測度がゼロであることを示した。また0次元の場合には、局所連結性の仮定なしに同様の結果を得た。これらの空間は多様体、メンガー多様体を含んでいることに注意する。さらに、グラフ写像への応用として、完全不連結な鎖回帰集合をもつ写像たちは写像空間において通有的であることを示した。 2.(古用)周期的差分方程式の周期解の存在を、シャウダーの不動点定理と凸リアプノフ関数を用いて示し例を与えると共に、無限の遅れをもつ周期的差分方程式の周期解の存在問題が有限の遅れをもつ補助差分方程式の周期解の存在問題に帰着されることを示した。 3.(古用)自励的な差分方程式の周期解の存在について、シャウダーの不動点定理を用いて論じると共に、幾つかの例を与えた。時間遅れを含む差分方程式も扱うと共に、非可付番無限個の非自明周期解をもつ例も与えた。
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