研究概要 |
本年度は,最終年であることを踏まえ,力学系における「ひねり」についての研究を完成した.その結果,下記の定理を証明した. 「球面の向きを保つ同相写像における連結な(1点でない)極小集合は,不変な補集合をちょうど2個もち,その他の補集合ではワンダリングになる」(松元重則氏との共同研究). アニュラスの力学系で,両境界で逆方向にひねられている同相写像をツイスト写像という.およそ100年前のポアンカレやバーコフの時代から研究され,複雑な力学系が生じる本質であると考えられてきた.上の研究では,ツイスト条件を連結な極小集合という設定に変え,非常に複雑な状況が必ず起こることを示し,位相的な特徴づけに成功した. 具体的には,補集合のプライムエンドを考えた.球面の単連結開集合には,カラテオドリの理論により,プライムエンドを境界に貼り付けることができ,閉円板に拡張することができる.いま球面の単連結開集合上に同相写像が与えられると,同相写像が閉円板にまで拡張される.このとき,境界に誘導される同相写像から回転数が計算される.境界ごとに回転数が異なる状況がツイスト条件に対応する.上記の研究では,連結極小集合の補集合における回転数が0でないことを証明している. 球面の同相写像の連結な極小集合としては,ハンデルの例が知られている.この例における極小集合は擬円周と呼ばれるもので,連続体の中でもっとも難しいものである.一方,ハンデルの発見から30年たつものの,円周とハンデルの例以外に(平面的)連結極小集合は見つかっていない.そこで,これら以外には無いのではないかと予想されている.上の結果はその解決に向けての1つの進展になっている.
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