カシャエフの提唱した結び目の双曲体積予想は、補空間に双曲幾何構造が入る結び目に対し、そのジョーンズ多項式の極限に双曲体積が現れる、という予想です。補空間に双曲幾何構造が入らない結び目に対しては、双曲体積をグロモフノルムに置き換える形で、村上順・村上斉によって予想が定式化され、これを一般化された体積予想といいます。このような結び目は、トーラス結び目と衛星型結び目に分類されますが、このうちトーラス結び目に対しては、カシャエフらによって予想が正しいことが証明されています。 これまでの研究で、双曲体積予想が成立する例はいくつか知られていますが、衛星型結び目、とくに補空間が本質的トーラスによってふたつ以上の双曲型結び目の補空間に分解されるようなものに対しては、一般化された体積予想が成立する例は知られていません。これは、ジョーンズ多項式の形が飛躍的に複雑になり、その極限を解析することが非常に困難であることが原因です。そこで本研究では、8の字結び目の補空間とボロミアン絡み目の補空間を貼りあわせて得られる衛星型結び目に対し、そのジョーンズ多項式を葉広・マスバウムの方法で計算し、組合せ的な議論でその極限を導くことに成功しました。これは、一般化された体積予想が成立する初めてのケースであり、今後の研究にも貴重な例となるでしょう。 一方、結び目の補空間とその鏡像を貼りあわせてえられる三次元多様体のレシュティキン・トラエフ不変量に対して、そこに含まれる量子6j記号を改良して得られる代数量の極限が、結び目のグロモフノルムの二倍を与えることを発見しました。この量が結び
|