昨年に引き続き、状態別再生産数概念の動学的定式化とその疫学的、人口学的モデルへの応用をおこなった。状態別再生産数は感染症のホスト集団が異質の人口(個体群)からなる場合に、特定種類の感染人口において1次感染者が再生産する2次感染者の平均数であるが、これは特定集団へのワクチン接種や隔離によって感染症が征圧できるかどうかの閾値条件を計算するために不可欠の概念である。本研究では、状態別再生産数を導く動学モデルを定式化して、初期成長率や世代時間との関係やそれらの計算方法を明らかにした。またこの基本モデルの応用として、未発症感染モデルによって発症感染者隔離政策の有効性を検討した。インフルエンザや天然痘などのように、発症段階以前に感染性を獲得している感染症は多い。そこで、感染者を発症と未発症にわけて、発症者のタイプ別再生産数や世代時間を計算する公式を導き、発症者隔離による流行根絶の閾値条件を導いた。従来の感染モデルは必ずしも観測にかからない感染者のカテゴリに依存していることが、実用的利用を妨げてきていたが、本研究のモデルでは、観測データから基本的な疫学パラメータが得られることが重要である。また、上記の考え方を人口学における多地域モデルへ適用することで、先進諸国などのようにすべての地域で、出生力が劣臨界状態にある場合に、特定地域の出生力を上昇させることで、全国人口の定常化が可能であることが示されるが、これは人口学的な出生力政策の可能性を拡張する重要な視点を与えている。
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