擬確率的方法の仕組みは次の2段階に分けられる。まず、(1) 任意の巨大な離散構造が擬確率的構造であらわされること、そして(2) 擬確率的構造は確率的性質(対応する確率構造が高確率で満たす性質)を満たすこと。これらによって、任意の巨大離散構造に対して、所望の性質を調べることができる。近年、離散構造体の代表例であるグラフだけでなく多くの離散的モデルに対して、(1) が成り立つことがわかってきた。(2) においてどれだけ良い性質が示せるかどうかに、応用上の鍵がかかっている。平成21年度も前年度に引き続き、(1) と (2) のバランスをよく考えた上で、超グラフを主な舞台として、応用をかんがみながら、周辺技術の基礎整備にはかった。関数解析やエルゴード理論からの手法に加え、数学基礎論ないしはモデル理論を応用した超準解析の手法が効果的に使用できることがより深く理解できた。そしてさらに純粋に組合せ論的確率論を適用する手法でも、Szemerediの定理よりもより強い密度版Hales-Jewettの定理が証明できることがわかった。これは従来では、エルゴード理論を経由する証明しか知られていなかった定理である。この証明手法と、従来のSzemerediの定理の筆者による証明との関係を調べた。後者のほうが単純明解であり、前者のほうがより複雑ではあるが、その関連性の詳細は、さらに調べる必要がある。この方面の研究は、より広範な分野の視点や手法を取り込む傾向にあるので、筆者が良く慣れている特定の手法を固定せず、筆者の従来の専門外であるような専門領域へも積極的に研究の幅をより広く深く考えていく予定である。
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