擬確率的方法の仕組みは次の2段階に分けられる。まず、(1)任意の巨大な離散構造が擬確率的構造であらわされること、そして(2)擬確率的構造は確率的性質(対応する確率構造が高確率で満たす性質)を満たすこと。これらによって、任意の巨大離散構造に対して、所望の性質を調べることができる。近年、離散構造体の代表例であるグラフだけでなく多くの離散的モデルに対して、(1)が成り立つことがわかってきた。(2)においてどれだけ良い性質が示せるかどうかに、応用上の鍵がかかっている。平成22年度も前年度に引き続き、(1)と(2)のバランスを考えた上で、超グラフ及びいくつかの離散構造を舞台として、応用をにらみながら周辺技術の基礎整備にはかった。従来からの関数解析やエルゴード理論からの手法、及び数学基礎論ないしはモデル理論を応用した超準解析の手法が効果的に使用できることがさらにより深く理解できた。また、近年の筆者の手法と結果は、重要な帰結としてある数論の定理を導くが、数論の手法はほとんど使っていない。そこに数論的手法や代数的手法を取り入れることにより、より豊かな世界への道があることもわかった。それに関連して加法的数論・加法的組み合わせ論からのアプローチと理論計算機科学への応用も考察した。この方面の研究は、より広範な分野の視点や手法を取り込む傾向にあるので、筆者が良く慣れている特定の手法を固定せず、筆者の従来の専門外であるような専門領域へも積極的に研究の幅を広げてきた。この投資は今後のこの研究の発展に重要な意味を持ってくると思う。この研究はこの時点で完成しているわけでは無く、技術的にも思想的にも進化し続けるものと思われる。
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