研究概要 |
Z.Balogh(1996)によるDowker空間Xの性質に関して,次の結果を得た。1.空間Xの閉集合からなる可算交差性を持つ任意の極大フィルターは収束する。2.空間Xの第二座標が0または1である点全体からなる部分空間Yは族正規でない。結果1に関して,X上の零集合からなる可算交差性を持つ任意の極大フィルターが収束するかどうか,すなわち,Xが実コンパクトであるかどうかという問題が自然に生じるが,それは未解決である。もしこの問題の解答が否定的であれば,結果1よりX上のベール測度で正則なボレル測度に拡張できないものが存在することが分かる。これは空間XがMarik空間であるかどうかというD.H.Fremlinの問題を解決する。一方,結果2の部分空間Yは,族正規でない正規空間の新しいタイプの簡明な例を与えるものである。本研究代表者は,さらに空間Yの任意の部分空間上の任意の点有限開被覆は局所有限細分を持っと予想している。もしこの予想が正しいことが証明されれば,Gutev-Ohta-Yamazaki(2003)による問題が通常の集合論の公理系において解決する。 以上のように,Z.BaloghによるDowker空間は種々の未解決問題に対する反例の有望な候補として期待されるが,その構造の解明はまだ始まったばかりである。また,この空間はその構成の主要部分が,十分に大きな濃度κに対する集合H(κ)のelementary submodelを経由している。それが解明を困難にしている原因の1つであるので,elementary submodelを使わない構成方法を構想しているところである。なお,Z.BaloghによるDowker空間の構成方法とelementary submodelに関する解説をホーム・ページ(本報告書末尾)上で公開している。
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