研究概要 |
平成19年度の前半は,前年度後半からの継続ある非対称関数に基づいた最小ヘッジ戦略問題を扱った.解の一意存在のための条件と特性について,関数解析の一般論を用いて研究した.研究成果を論文「Optimal hedging strategies on asymmetric functions」にまとめた。 さらに後半は,no good dealという概念から導かれる請求権価格の上下限と凸リスク測度の関係について研究した.非完備市場における請求権の価格を無裁定条件から導こうとすると,価格は一意に定まらず,価格の候補となる範囲のみが与えられる.しかもこの価格の範囲は非常に広く実用性に乏しい.そこで,何らかの指標を基に,それがある閾値を下回るか上回る場合を,投資家にとって良い投資機会(good dealであると定義する.請求権の価格は,買い手売り手双方にとってgood dealにならないような値を取るはずである。そのような価格の範囲をgood deal boundと呼ぶ.これは,無裁定条件から導かれる価格の範囲よりも狭くなる.私は,期待ショートフォール(損失額の重み付け期待値)を基にしたgood deal boundの研究を行った.まず,投資家が上手く戦略を組んで期待ショートフォールをある閾値以下にできる場合をgood dealと定義した.つまり請求権の価格は,買い手売り手共にどんなヘッジ戦略を組んでも期待ショートフォールをある値以下にできないような値である.このような値の上下限を,凸リスク測度を用いて表現した.成果を論文「Good deal bounds induced by shortfall risk(現在審査中)」にまとめた. さらに,3月に入ってからOrhcz space上での最適ヘッジ戦略とそれに関連するマルチンゲール不等式の研究を行っている.この研究に関連した研究連絡を行うためにスイスを訪問した.
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