前年度までに引き続き、対称群が作用する有限次元次数付き代数の構造が研究主題である。前年度では余不変式環およびその一般化であるSpringer加群に対して、「次元の一致」とよばれる組合せ論的構造が具体的な主題であったが、本年度ではより一般の次数付き代数を主題としている。n変数多項式環を、各変数のd乗で生成されるイデアルで割って得られる代数は、0次元のGrenstein Artin代数としての構造をもつ。この代数については、WatanabeによるStrong Lefscheta Property(以下SLP)についての研究がよく知られており、この代数がもつBetti数列の単峰対称性を反映し、興味深い結果が得られている。一方で、イデアルの対称群に関する不変性から生じる対称群加群としての構造と、d次元空間のテンソル積としての実現を考慮すれば、この代数は対称群と一般線形群が作用する空間として、いわゆるSchur-Weyl相互律が適用できる空間となっている。 今年度は、対称群が作用する次数付き代数に関する次元の一致とSLPとの関連を基盤とし、上記代数の表現論的構造が、Betti数列の組合せ論的構造に与える影響について考察し、特にSchur-Weyl相互律によって記述される上記代数の規約分解が、SLPのもと効率的に実現できることを見いだした。SLPをもつ代数にはリー環sl2が自然に作用する。SLPにおけるLefschetz元がその生成元の一つとなるのだが、特に、このLefschetz元の作用に関する核を、対称群加群として規約分解すると、全体の規約分解が具体的に構成できることを示した。この規約分解は、Lefschetz元の性質から、上記代数の次数分解と密接に関連し、規約成分が各斉次空間に積み上がる様子を克明に記述しており、次元の一致と単峰対称性との関連について考察するための貴重な手がかりを与えている。
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