研究概要 |
3次元空間にひろがる非圧縮粘性流体の中に物体がある.研究目的は,物体の運動と流体の運動の相互作用の解析である.流体の運動はNavier-Stokes方程式により記述され,一方で剛体の運動は並進と回転に分解されて,それらは運動量と角運動量の保存則から導かれる微分方程式により記述される.本年度は特に,物体の運動が指定されていて,回転角速度が一定で並進はしない場合に,解の存在と性質,漸近挙動を詳しく調ベた.回転座標系により一定な外部領域での問題に書き直すとき,剛体の回転運動をあらわす非有界係数をもつ移流項が現れるが,これを粘性項からの摂動として扱うことはできない点が,この問題の最大の特徴である.まず,ローレンツ空間を本質的に用いることで,回転角速度と外力が小さいときに定常流を構成し,その空間無限遠での挙動を明らかにした.また,この挙動と方程式の線型部分が生成する半群の減衰評価を組み合わせて,定常流の安定性を示した.その際に,擾乱のルベーグ空間での減衰の速さも詳しく求めた.この減衰の速さは最適なものである.結果として,定常流に時間無限大で漸近して行く時間大域解の一意存在が証明された.さらに,今のところ,外部線型定常流だけに対してではあるが,回転の効果による空間無限遠での解の減衰構造の異方性をはじめて明らかにした.並進の効果による異方性wakeとしてよく知られていたが,回転の効果による異方性についての知見は非常に新しい.類似の異方性が非線型の流れや非定常の流れに対しても期待され,これは来年度の課題である.
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