研究概要 |
今年度は,符号不定な変係数を持つ線形項に対して目明解の周辺で高位の無限小の非線形項を内包する非線形楕円型境界値問題を考察して,正値分岐解の大域的挙動について研究した.そこでは,ロペス・ゴメスによって提唱された大域的分岐理論の枠組みで問題を定式化した.前年度に行ったラビノビッツの理論に基づいた分岐解の大域的解析は,その後の注意深い検証の結果,我々の問題に対しては不十分であることがわかった.帰着された方程式に内包する恒等写像のコンパクト摂動がいわゆるクランダルとラビノビッツの横断条件をみたすことをチェックして,正値分岐解がパラメータと解空間の直積空間において大域的に延長可能であることを示した.さらに,得られた一般論の具体例として,ロジスティックタイプの非線形反応項をべき型の非線形境界条件のもとで考察した.そして,ある条件のもとで,正値単純主固有値から分岐した最大分岐成分は折り返し点を持ち,パラメータの正の方向に大域的に延長されることを示した.証明の本質は,分岐解の大域的考察に加え,正値解の大きさに対する先験的評価を確立することにあった.この先験的評価のためには,フィロとカクーの不等式とグリーンの公式を合わせて援用した.この方面の従来の研究が定数係数の場合,または定符号変係数の場合に限らていたのに対して,本研究においては符号不定な係数の場合にまで考察の対象を拡げることができた.しかしながら,得られた結果は,比較して,まだ弱いものであり十分とは言えない.
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