研究概要 |
本年度も,昨年度に引き続き測度付き同値関係における「commensurability」という概念について,連携研究者である青井氏と集中的な研究を行なった.今回の主な成果は次の通りである.(1)測度付きエルゴード同値関係Rとそのエルゴード部分同値関係Sが与えられたとき,組(R,S)がcommensurable(=Hecke pair)であることと,R,Sから構成されるフォンノイマン環A,Bに対し,組(A,B)がIzumi-Longo-Popaの意味で離散的であることが同値であることは以前の研究で明らかになった.本年度研究では,この条件のもと,(A,B)から作られるJones towerの相対可換子環たちが互いに双対関係にあることを明らかにすることができた.部分因子環理論では,Jones towerの相対可換子環たちは「観念的」には互いに双対関係にある対象として捉えられてきたが,今回は相対可換子環たちを繋ぐ「フーリエ変換」を具体的に構成することにより,「観念的」ではなく現実に双対関係にあることを証明した.(2)相対可換子環に現れるフォンノイマン環は,数論におけるHecke環の一般化を与えていることを証明することができた.具体的には,同値関係Rが,群Gのエルゴード的作用から構成されていて,さらにSが群Gの部分群Hの作用により実現されている場合,(R,S)がHecke pairであることと(G,H)が数論の意味でHecke pairになっていることが同値であることは前年度成果の一部である.今回は,相対可換子環に現れるフォンノイマン環がまさに(G,H)から構成される数論の意味でのHecke環と同一のものであることを証明するとができた.以上の結果は作用素環,エルゴード理論,数論という異なる分野の予想もしなかった結びつきを新たに提示したことで意義深い結果と言える.
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