研究概要 |
擬軌道尾行性の概念は,力学系における安定性理論やエルゴード理論において最も基本的な役割を担う位相的性質である。力学系の数値計算的研究においてその精度を保障する場合,その系が擬軌道尾行性をもつか否かが本質的である。報告者は,既に微分可能閉多様体上の微分同相写像が擬軌道尾行性をもつための必要十分条件を見出している。 写像fは微分可能閉多様体上の微分同相写像とし,pをfのひとつの双曲型周期点とする。本研究の目的は,擬軌道尾行性理論において最も重要な研究対象である,pを含むfの鎖成分Cf(p)がC1-安定的擬軌道尾行性をもつとき,Cf(p)を双曲的なホモクリニッククラスとして特徴付けることである。平成19年度には,Cf(p)-芽拡大性を仮定することによりその双曲性が証明された(下記,11.研究発表,1つ目の論文)。この結果は,報告者自身による一連の研究成果を基礎に完成されたものであり,擬軌道尾行性理論において全く新しい研究成果である 平成20年度は,Cf(p)-芽拡大性の仮定を取り除くため,C1-一般性の範疇の下で,あるいは局所極大性の概念を導入することでCf(p)の双曲性の証明に挑戦し,1つの成果が得られている(下記,11.研究発表,2つ目の論文)。つい最近,報告者の上記研究成果(11.研究発表,1つ目の論文)にLiao理論を応用することにより,北京大学のグループがC1-安定的擬軌道尾行性をもつ鎖成分Cf(p)の双曲性の証明に成功した。これにより,本研究目的は完全に達成された。今後は,Cl-安定的擬軌道尾行性をもつホモクリニッククラスHf(p)に対して同様な特徴付けを目指す。
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