研究の目的のひとつである、球面の分岐被覆の組合せ構造について、双曲的な幾何を持つ有理関数でコーディング空間を決定できるようなものを見つけることを、実施計画の中であげていた。 この問題に関し、ジュリア集合が完全不連結(すなわち、カントール集合)になる双曲的な有理関数についての研究を進めた。昨年度は、次数が2の場合について、幾何学的コーディングの重複度は必ず2のベキになることがわかったが、今年度はもう少し一般的なものについて考察を行い、次のようなことがわかった。 1.次数dが何であっても、ジュリア集合への幾何学的コーディングで1対1のものがあれば、任意の幾何学的コーディングの重複度はdのベキになる。 2.さらに、クリティカル・オービットが退化していない場合は、任意のdのベキにたいして、それを重複度にもつ幾何学的コーディングが存在する。 3.ジュリア集合がカントール集合になるための十分条件として、安定な不動点を含むファトゥ成分にすべてのクリティカル・ポイントが属することというものが知られているが、この条件をみたしていても、1対1の幾何学的コーディングがあるとは限らない。この場合、幾何学的ではない1対1コーディングは持つし、適当回の合成については1対1幾何学的コーディングを持つ。 最も簡単なクラスと思われる、ジュリア集合がカントール集合になるものについてでも、これほど豊富な構造を持つことがわかったことは意義が大きい。ここで得た知識や手法を手がかりにして、広いクラスの有理関数へと今後の発展が期待される。
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