宇宙背景放射は、星や銀河として個別に分解できない暗い天体からなる空間的に一様な放射である。そこには、初期宇宙から現在に至る宇宙史のなかのあらゆる放射・吸収過程の情報が「光の化石」としてとどめられている。赤外線波長域(1-200μm)の宇宙背景放射は、宇宙初期の密度ゆらぎが成長して初めて生まれた星(第一世代の星)の放射からなる可能性があり、近年注目されている。本研究では、赤外波長全域をカバーする「あかり」衛星の宇宙背景放射観測データを用いて、その空間的ゆらぎのスペクトルから第一世代の星の寄与を検証するとともに、宇宙構造の形成過程を観測的に探求することを目指した。 我々は、「あかり」による黄極近傍での大規模なマッピング観測の結果、近赤外域(波長2-5μm)および遠赤外域(波長50-180μm)の宇宙背景放射と空間的ゆらぎを検出することに成功した。「あかり」では、前景成分である銀河をこれまでになく暗いものまで分別できるため、それらを除去することでさらに遠方(宇宙初期)から来る真の宇宙背景放射を検出できる。詳細なデータ解析の結果、近赤外域と遠赤外域ともに、宇宙背景放射は既知の種族の銀河では説明がつかないほど明るく、その空間的ゆらぎは10分角以上の大角度スケールで卓越していること等が明らかになった。これらの科学的解釈は今後の課題であるが、第一世代の星や宇宙初期の構造形成に関わる重要な情報であることは疑いない。
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