本研究では、高放射線耐性を持つと考えられているワイドギャップ半導体を用いて、特に素粒子実験分野での実用を見据えた次世代粒子検出器の開発を行っている。まず、窒化物半導体の中でも、近年その基板製作技術が急激に進歩しているGaN半導体を用いて、検出器の基本素子となるショットキーダイオードを作製した。ここでは、検出器としての汎用性を持たせるため、従来のGaNエピ基板の標準構造として用いられていたサファイヤ上に成膜したGaN基板ではなく、導電性を持つn型SiC基板上に成膜した高抵抗GaN基板(膜厚〜1800nm)を用いた。作製した素子に対して各種特性を調べた。電流-電圧特性においては、低暗電流(数10nA/cm^2)で〜60V程度の逆電圧耐性をもつことがわかった。紫外光入射に対する分光感度特性では、高感度光応答性とともにGaNバンドギャップに対応する波長カットオフが確認され、使用したGaN基板の高品質性が実証された。温度依存性の試験では、環境温度が〜40℃程度までの範囲では暗電流の極端な増加は観られず、ワイドギャップ半導体の優位性が裏付けられた。α線入射に対する電荷収集効率をSi検出器と比較して評価したところ、対Si比90%程度と高い値が得られた。このGaNダイオードに、20MeVの陽子線を入射し放射線耐性を評価した。10^<12>〜10^<16>p/cm^2の照射量に対して、照射前後の電気特性の変化を調べた。その結果、最大照射量(〜10^<16>p/cm^2)で雑音特性のわずかな劣化(暗電流の増加が1桁以下)が観られたが、従来Si材料で問題となっていたような極端な劣化はなかった。放射線耐性については、今後、照射の際の条件を変えるなどして、多角的かつ系統的に継続して調べていく。
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