平成21年度は前年度に引き続き、超対称模型に現れえる不安定な暗黒物質から生じる、高エネルギー宇宙線の研究を行った。PAMELAによって観測される高エネルギー陽電子線の観測は、宇宙線に含まれる電子や陽電子のフラックスが標準的な計算の結果を大きく超過していることを示唆している。本研究においては、Rパリティの小さな破れにより超対称模型における暗黒物質が極めて長いが有限の寿命を持つ場合、それら観測されている電子・陽電子線のフラックスが正しく説明できることを明らかにした。さらに同様の模型において高エネルギーガンマ線や反陽子線のフラックスを計算し、将来の実験において不安定な超対称暗黒物質というシナリオがどのように検証されえるかを議論した。 また、暗黒物質の対消滅によってPAMELAの結果を説明するようなシナリオについても考察を行った。そのようなシナリオでは元素合成中においても暗黒物質粒子の対消滅過程が頻繁に起こる可能性がある。本研究では暗黒物質対消滅が元素合成に与える影響を議論し、軽元素量が観測と無矛盾となるようなパラメータ領域を明らかにした。 また、スタウ粒子が超寿命となるような超対称模型を考えた場合、様々な超対称粒子の質量がLHC実験においてどのように、かつどの程度正確に測定されるかを議論した。とくにスタウ粒子の運動量情報を使うことにより、スクォークやニュートラリーノ、さらには重いスレプトンといった粒子の質量が高い精度で測定され得ることを明らかにした。
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