今年度はキセノンガスの液体シンチレーターへの溶解度測定と発光量の測定を行った。2重ベータ崩壊探索実験の感度は第1に崩壊元素をどれだけ多く用いるかで決定まるので、溶解度は実験遂行上最も基本的な物理量である。有機液体への溶解度は質量比で約2%であることが知られているが、液体の分子構造(芳香族と直鎖状飽和炭化水素)では異なることと、カムランド実験で用いる液体シンチレーターへの溶解度の測定例はほとんどない。溶解度測定:キセノンガスを資料の液体に飽和させ重量を直接測定する方法を用いた。10万分の1の高精度で測定できる電子天秤が使用できたためで、ガスクロは用いなかった。カムランド液体シンチレーターの構成成分であるプソイドクメンとノルマルドデカンについてキセノンをバブリングで飽和させた。その結果、重量比で、前者は2.0%後者は2.7%増加した。後者は前者に比べ30パーセント以上多く溶けることがわかった。また両者の1:1の混合液に対する溶解度は2.4パーセントで丁度中間であった。この結果は検出器の大きさと液体シンチレーターの成分を決める基礎データである。発光量測定:発光剤であるPPO(ジフェニルオキサゾール)をプソイドクメンに少量(3g/リットル)溶かした液体シンチレーターにキセノンガスを飽和させコバルト60のガンマ線を照射し、コンプトン後方散乱の電子の光信号を2台の光電子増倍管を用いて同時測定した。結果、キセノンガスを溶解させる前にくらべて発光量が2割ほど増加した。これはキセノン原子の発光への寄与を示唆する興味ある結果である。検出エネルギーのスペクトルと合わせさらに測定を行なう。その他:キセノンガスを窒素ガスでパージする試験を今年度行ったが、ガス流量計の安定性と精度が十分でないことがわかり、次年度に行う。光減衰長と発光量の経年変化は計測装置が競合したため次年度に行う。
|