太陽変調現象には太陽圏環境、星間空間での宇宙線エネルギースペクトル(LIS)、宇宙線拡散係数が強く影響し、信頼性のある太陽変調モデルを構築するにはこれら全ての方面からの考察が必要となる。このうち太陽圏環境に関しては昨年度までに研究を進め、太陽風速度の緯度依存性や太陽光球面における磁力線の差動回転を起因とする惑星間空間地場の乱れ(Fisk field)を組み込んだ太陽変調シミュレーションコードを開発した。残るLISや拡散係数を求めるには、観測との比較を繰り返すことによって観測を矛盾なく再現できる数値をイタレーションする必要がある。そこで本年度は、本研究で開発したFisk-type惑星間空間磁場を考慮した太陽変調シミュレーションコードで宇宙線陽子、反陽子、電子、陽電子のエネルギースペクトルを計算し、観測結果と比較することで観測を矛盾なく説明できる宇宙線エネルギースペクトルおよび拡散係数を探求した。研究成果はしかるべき科学論文で報告する予定であり、現在投稿論文を準備している。 この他上述した研究の発展として、確率微分方程式を用いた数値計算手法で銀河宇宙線の年齢分布や宇宙線源の空間分布、PLDの推定を行った。第一段階として行った等方拡散モデルの計算では、銀河宇宙線のPLDおよび年齢分布が対数正規分布型になることや、比較的若い銀河宇宙線は、discrete source(とりわけ太陽系近傍で最近発生した超新星残骸)からの寄与が強いことが分かった。この研究成果は第31回宇宙線国際会議や日本物理学会秋季大会で発表した。その後行ったエネルギー損失過程を組み込んだ数値計算では、太陽系近傍で最近発生した超新星残骸からの寄与が銀河宇宙線電子のPLDおよび年齢分布に強く影響することが分かり、その詳細を日本物理学会第65回年次大会で報告した。
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