この研究は弦理論の具体的なコンパクト化を通じて素粒子論における現象論的な問題の解決策を模索しようとする試みである。これまでは、低エネルギーの立場から見た場合のアプローチがほとんとであるが、弦理論が我々の高エネルギー物理を記述できる枠組みであると仮定した場合には、高エネルギーからこれらの問題を捉える別の視点をもつことが可能になる。このことが新しい解決策を提示することを期待している。 特に、F-theoryと呼ばれるコンパクト化を用いて現象論的な問題の解決策を模索することが、この研究課題の大きな目標であるが、平成20年6月に、Harvard大のVafe氏を中心としたグループにより、F-Theoryにおいてブレイン上での場の理論が現象論的に好ましいGUT模型が、ゲージ階層性だけでなく、多くの現象論的問題を一気に解決する枠組みを与えるのではないかという信憑性のある議論がなされ、多くの期待が研究者の間で高まっている。 今年度は前年度から引き続き、主に、F-theoryを用いたGUT模型における湯川結合のより詳細な研究を行った。これは、標準模型の湯川結合を再現するために重要なだけでなく、階層性問題を超対称性によって解決するに当たって問題となるCP問題やFCNC問題といったものを考える際にも非常に重要な手がかりを与えるものである。特に、GUT模型に現れる陽子崩壊の寿命を実験結果と矛盾しないためにどのような方法があるかを具体的に検討した。また、標準模型に見られるフレーバーの構造を現在の枠内で再現するための手段について理解の深化を試みた。
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