本研究計画の目的は素粒子標準模型で最後の未知の部分である電弱対称性の自発的破れの部分(ヒッグスセクター)の性質を理論的洞察と将来の加速器実験での検証によって決定し、素粒子の質量起源の謎を解くとともに標準模型を超えた「新物理学」の方向性を明らかにすることにある。平成20年度の研究成果としては (1) ヒッグスセクターの拡張を伴うTeV領域の物理により質量スケールの大きなファインチューニング無く微小ニュートリノ質量を量子補正で導出し、暗黒物質候補の粒子の熱的残存量がWMAPのデータを説明し、さらに荷電ヒッグスの物理で電弱バリオン数生成に必要な強い一次的相転移が実現する模型を考案し、その性質を調べ実験での検証を議論した。これはTeV領域でニュートリノ質量を導出する物理が同時に暗黒物質の説明と電弱バリオン数生成を可能にし、かつ実験で検証可能な具体的模型として初めてのものである。 (2) ヒッグスボソンの自己相互作用は対称性の自発的破れの本質を理解する上で重要である。線形加速器の光子衝突実験でのヒッグスボソンの対生成過程を考え、自己相互作用が標準模型の値からどのくらいずれたら測定可能かを研究し、そのずれを与える具体的な例としてヒッグス2重項2個の模型で解析を行い、この反応過程は、電子衝突実験による測定と比べ重要になり得ることを見出した。実験家との共同研究により本格的なシミュレーションを行いバックグラウンドも十分落とせる可能性を見出した。 (3) その他、ヒッグス粒子の崩壊、レプトンフレーバーの破れに関する研究をした。
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