今年度は、主として2つの実験的研究をおこなった。ひとつは、JINRのSmirnov博士との共同研究により、京都大学のイオン冷却リングS-LSRをもちいて、相転移をおこす粒子数を増やす研究をおこなった。電子ビーム冷却においては、その冷却力の弱さから、相転移をおこす粒子数が数千個に制限されることが、実験的にも、分子動力学シミュレーションによっても、明らかとなっている。それに対し、ビーム分布を横方向に制御することにより、相転移点での粒子数を制御する実験をおこなった。その結果、直接的に粒子数を増やすことはできなかったものの、相転移温度周辺での挙動の変化が観測され、ビーム相転移に関する理解を深めることができた。この結果の詳細については、論文発表を予定している。 今年度のもう1つの研究は、ビーム取出しである。結晶化したビームをマイクロビームなどとして利用するためには、キッカー電磁石をもちいて、速い取出しをおこなう必要がある。こうした冷却ビームの速い取出しに関する技術開発を、イオン冷却リングS-LSRと、放射線医学総合研究所のイオンシンクロトロンHIMACにおいて、おこなった。その結果、シミュレーションから予想されるとおりの短時間で、冷却ビームを取り出すことに成功した。この結果は、論文および学会発表において、公表している。 これらの成果をもとに、今後は相転移したイオンビームの速い取り出しに取り組んでいく予定である。
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