将来の素粒子実験において重要となる要素の一つに粒子識別能力を向上させることが挙げられる。現在この粒子識別にはシンチレータ内で荷電粒子が作り出すシンチレーション光の強度を測定する検出器が一般的に使われている。そこでこのシンチレータ光の量を増やすことができれば、検出器の精度向上が期待できる。近年、半導体ナノ粒子を高濃度で分散させたガラスが産業技術総合研究所により開発された。このナノ粒子分散ガラスの特徴として、発光量が多いこと、発光が非常に短いこと、素粒子実験などで同様の蛍光剤として応用されている有機色素より劣化が少ないことが挙げられる。本研究の目的は、このガラスがこれらの特徴を生かしてこれまでより発光量の多い新しいシンチレーション検出器として機能する可能性を吟味することである。 今年度の研究計画の重要な点は研究の仕様に合うナノ粒子分散ガラスを入手することである。このガラスの本来の用途は液晶画面などへの応用であるため0.2mmという非常に薄い試料しかこれまで作製されておらず、本研究に必要な1mm厚の試料は当初無かった。そこで計画では薄い試料を数枚重ねて実験を行う予定であったが、不均一や構造上割れやすいことが判明した。この問題を解決するため薄いガラスを数枚重ねる方法を諦め、一枚のガラスで厚さ1mmを実現する研究を産業技術総合研究所に依頼した。試行錯誤の結果、試料は入手できたが、大きさは希望の半分程度(7mm四方)となった。また試料調達と平行してシンチレーション光の測定装置のデザインも行い、測定装置の準備も行った。 実験において、形状が変化し反りが現れるため測定に必要な光量の変化に影響を与えること、またガラスに混入される物質によって透明度が落ち、ナノ粒子による光量の増加分を打ち消す可能性があることが分かった。これらについて深く現象を理解するためにシミュレーションを用いて調査した。
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