エネルギー領域がknee近傍の宇宙線のなかにフラクタル的特徴を示す時系列をもって観測される宇宙線群の存在が報告されている。この非線形的現象はカオス的なのかどうか、またその宇宙線起源について調べるのが本研究の目的である。そのためには、高い頻度での宇宙線観測を行う必要があり、チャカルタヤ観測所(5200m)を利用した実験となった。本年度は、チャカルタヤ観測所の空気シャワーアレイと連動した空気シャワー観測をおこなうため、ラパス大学構内(観測高度3900m)に小空気シャワーアレイを設置し、二つのシャワーアレイを用いた連続観測を開始した。新しく設置した小空気シャワーアレイは、4台のシンチレータ検出器(FT検出器と粒子密度検出器を併用したもの)を7m×7mのスパンに展開したものからなる。また特徴として、二つの装置ではそれぞれ宇宙線の時系列データとシャワーの到来方向を観測するが、空気シャワーのエネルギー情報は中心となるチャカルタヤ観測所の装置でしか得られないため、両装置間の時間情報を精度よく一致させる必要があり、ラパス大学構内に設置した小空気シャワー装置にはGPSを利用して1μ秒の精度で山上の空気シャワー装置と同期できるようにしてある。この同期された観測によって、それぞれの装置でフラクタル特性をもつ宇宙線群の観測を行えるだけでなく、そのイベントに対する相関データの解析により宇宙線群の性質を調べることができる。もし同時性が確認されれば、このような宇宙線群の存在の明確な検証になるだけでなく宇宙線群の広がりについても研究することが可能である。しかしながら現時点では、約6年間のチャカルタヤ山の空気シャワーデータを用いた非線形解析の結果では、2008年秋の学会で報告をしたように、いまだにフラクタル特性をもつシャワー群の存在を積極的に肯定できる結果には至っていない。
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