この研究の主要な目的は、ブラックホールの熱力学、特にホーキング輻射やブラックホールのエントトピーなどを、超弦理論や行列模型といったミクロな観点、及び量子異常などのマクロな観点の双方から理解して、時空の微視的構造と巨視的構造を理解する事にある。 平成19年度は、ブラックホール時空でのホーキング輻射を、ホライズン近傍での量子異常現象というマクロな観点から普遍的に理解することができた。十分ホライズンに近い場所での場の量子論は、2次元の理論で記述することができる。その時、ブラックホールへ向かう内向きのモードとブラツクホールから外へ逃げ出す外向きのモードは、それぞれ左向き右向きのモードと解釈できる。古典的には、ブラックホールへ落ち込んだ自由度はホライズンの外へ逃げ出す事ができないので、このモードを無視する事ができる。しかしそのようなことをすると理論はホライズン付近でカイラルとなって、量子論では、ゲージ対称性や一般座標不変性が量子異常現象により破れてしまう。これらの対称性は理論全体では破れる事はなく、これがホーキング輻射の原因となる。今年度は、この考え方を、高階スピンのカレントにまで適用して、ホーキシグ輻射からのこれらのフラックスへの寄与を計算することができた。 計算手法としては、(1)高階スピンをもつカレントに対するコンフオーマル変換の応答を調べる事(2)高階スピンカレントに対するアノマリー(量子異常)方程式を導出しそこから、フラックスの計算を行うことの2種類の異なる方法で行った。
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