世界最高エネルギーでの陽子・陽子衝突加速器LHCを用いたATLAS実験では、人類未踏のTeV領域で新粒子を直接に探索することができる。この際、膨大なバックグラウンド事象の中から、新現象を含む重要な事象を逃すことなくオンラインで高速判定してデータ収集することが必須であり、難関の実験技術である。本研究ではATLAS実験における後段トリガーの開発を行い、オンラインでの事象選択に応用することを目的としている。 本年度は、ミュー粒子を選択するトリガーのうち、現行では運動量測定精度があまり良くない、検出器の中央から外側寄りのエンドキャップ部について、以下の2つのアイデアから改良を進めた。 一つは、最内層の検出器を積極的に用い、運動量測定が反応バーテックスの位置に依存することを抑えるアルゴリズムを開発した。この成果については大学院生の修士論文として纏められ、日本物理学会でも報告した。 もう一つは、カルマンフィルター原理を用いて複雑な磁場も正しく考慮に入れて飛跡の再構成を行うトリガーの新規開発を進めた。このような本格的な飛跡再構成を後段トリガーのうち最初の段階で導入するのはATLAS実験では初めての試みである。技術的な開発事項を完成させ動作させることに成功し、細部は未調整ながら現行と同等もしくはやや良い性能を得た。今後の詳細な調整と較正により飛躍的な改良が期待できると考えている。この成果については物理学会でも報告した。 また、2009年のLHCの本格稼働の際に必須の、取得されたデータを直ちに解析してトリガーが正しく動作しているかをモニターしたり、トリガー論理に必要な関数やパラメータの較正を行うプログラムを開発した。
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