研究概要 |
電子およびミュー粒子の異常磁気能率への量子電気力学による寄与を求める研究を引き続き行った。量子電気力学の摂動計算10次の項に含まれる32のゲージ不変なセットのうち、今年度は光光散乱を内部的に含む二つのセット(Set II(e), III(c))と、フェルミンループを全く含まず光子5個からだけからなるファインマン図形によるセット(Set V)を集中的に計算した。 光光散乱を内部的に含むファインマン図は摂動の8次においてはじめて出現する。10次ではさらにその光光散乱のフェルミオンループに1光子補正がかかったもの(Set II(e))と、外部フェルミオンにつながるフェルミオン線に1光子の補正が生じるもの(Set III(c))がある。一般に頂点関数の繰り込み項は、質量殻上の条件で行うと赤外発散を新たに持ち込んでしまう。そのため、数値計算には適さず、私たちは質量殻上の繰り込みを2段階に分けて行う、中間繰り込みの方法を用いて数値計算での赤外発散を回避してきた。しかし、光光散乱を含む頂点関数では、この赤外発散が生じないか、生じても同じ図形の他の繰り込み項と相殺する。従って、これらのセットに対しては質量殻上の繰り込みをすべて数値計算で行うことにし、新たに加わった1光子の補正のみ中間繰り込みで処理した。早川と仁尾で独立にプログラムを構成し、相互検証を行い、数値計算を実行した。 SetVに関しては、プログラム自体は自動化システムの完成により3年前に完成していたのである。ただし、その数値計算は、桁落ちがひどく、また、構造も複雑で長大であるため、望みの精度までの答えを得ることができないでいた。2009年の秋に理研に新しいスーパーコンピュータシステムRICCが導入され、飛躍的に処理できる計算量が増えた。これによってSetVの計算がようやく可能になった。
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