量子常誘電体として知られているSrTiO_3(STO)は、0〜40Kの広い温度範囲で、電気分極を揃える双極子・双極子相互作用と、それをバラバラにする量子揺らぎ(ゼロ点振動)が拮抗している臨界領域(量子常誘電状態)が実現されている系である考えている。昨年度、STOにおいて、全散乱光強度(I_<tot>)が24〜37Kの温度範囲で異常に強くなることを見いだし、臨界領域を特徴づける長さのスケール(LS)が存在すると結論づけた。本年度は、このLSの異方性について調べた。 STOの場合、散乱ベクトルがq//[001]_cのときは30〜35K、q//[1-10]_cのときには28〜33Kの温度範囲でI_<tot>が異常を示すことが分かった。また、Nb^<5+>をドープしたSTO(STN)の場合、q//[001]_cのときには28〜33K、q//[1-10]_cのときには24〜29Kの温度範囲でI_<tot>が異常を示すことが分かった。この実験事実から、次の2つのことを結論づけた。 1. STOでもSTNでも、LSの異方性を立体構造として捉えれば、[001]_c方向に長軸を持つ楕円体となる。 2. STNでは量子常誘電状態がSTOに比べ低温で出現する(これまでに報告されている、Nb^<5+>ドープによる強誘電体ソフトモードのハード化現象と矛盾しない)。
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