本年度は、表面に露出していない"埋もれた"薄膜界面の価電子帯構造を評価するために、軟X線反射多層膜内部に発生する定在波の位相を入射角や波長により変化させ、その変化させた位相を実験的に決定する手段を開発した。引き続き、求めた定在波の位相情報を基に軟X線を照射した際に放出される光電子或いは軟X線の探査深さを求め、得られた探査深さとそれらの信号が反映する価電子帯構造を計測し、埋もれた界面層の価電子帯構造を評価した。 具体的には、まず位相評価のための多層膜の作製を行った。実験は、まず人為的に最上層の膜厚変化により位相変化を起こした反射多層膜を作製し、その反射率と収量測定から位相変化を求めた。求めた位相変化から評価した最上層の膜厚が蒸着レートから求めた膜厚に一致したため、反射率と収量測定から膜厚を評価することが可能になった。 一方で、試料運搬時の試料保護のために評価層の上に保護層を蒸着するが、測定の際には、その保護層を取り去る必要があり、そのため市販のイオンビーム装置を改良し、保護層除去のための可搬型のAr^+スパッタ装置を作製した。これは予定通り動作した。以上から、最上層の膜厚を評価しつつ、スパッタにより最上層の厚さと波長を掃引することで、深さ方向のFe/Si界面の価電子帯測定を行ったところ、試料作製時のSi層の膜厚変化に応じて、Si層が薄いときのFe/Si界面は金属的な電子状態を示し、厚いときの界面は半導体的な様相を示すことが明らかとなった。
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