研究概要 |
今年度は、前年度に明らかになった多層膜の位相評価法を元に、Fe/Si磁性多層膜界面の価電子帯構造を評価した。まず定在波生成層となる、0.75keV付近で反射強度を持つように設計した反射多層膜を作製し、その上に評価層となるFe/Si層を蒸着した。このときの定在波の位相は反射多層膜の周期構造によって決まり、その位相は反射スペクトルと全光電子収量(TEY)スペクトルにより求めることができる。予め反射スペクトルを分子科学研究所UVSOR施設BL5Bにて評価し、発光スペクトルと同時にTEYスペクトルを測定し定在波の位相を求めつつ、Fe L_<2, 3>内殻発光による価電子帯構造の評価実験を行った。測定はSpring-8のBL27XUを使用した。得られたFe L_<2, 3>内殻発光スペクトルは、その形状がFe金属のスペクトル形状とよく似ており、Fe/Si磁性多層膜の磁性を担うと考えられるFe 3d部分状態密度を強く反映していると考えられる。その上で、次の2つの特徴が得られた。(1)定在波の位相変化にしたがって、Fe L_<2, 3>内殻の発光強度が変化した。発光強度の変化と位相変化から求めた発光の中心位置の対応を調べたところ、名目的な膜厚変化と発光強度の変化がよく対応した。これは深さ方向の測定がその場で可能になったことを示している。(2)位相制御によりFe L_<2, 3>発光の発光中心をFe/Si磁性多層膜の表面側から基盤側に移動させたのに従って、Fe L発光の発光スペクトルのスペクトル形状が変化した。同様の実験条件で測定した光電子分光スペクトルの結果と併せて考えると、深さ方向の価電子状態の変化と同時に深さ方向のケミカルシフトが合わせて現れたと考えられる。
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