研究概要 |
新しい2次元電子系として注目を浴びているグラフェン上の電子はニュートリノと同じ静止質量がゼロの相対論的なディラック方程式にしたがうという著しい特徴をもつ.この方程式の最も著しい待徴は波数の原点特異点となっていることであり,そのため,波数を原点のまわりでゆっくりと1周させると状態はもとに戻るが波動関数には余分なベリーの位相が付く.このベリーの位相のために波動関数は符号が変わり,2周で初めてもとに戻る.その直接の帰結の一つは,ゼロエネルギーにランダウ準位が存在することと金属ナノチューブでの後方散乱の禁止である.ごく最近,それを使った電界効果トランジスタが作製され,量子ホール効果が観測された.この研究は,グラフェンが示す通常の2次元電子系とは異なったさまざまな量子輸送現象について理論的な予言を行うことを目的とする. 具体的な課題は(1)トポロジカル特異性の解明,(2)対称性のクロスオーバ,(3)量子ホール効果と磁場中の電気伝導,(4)格子振動と電子-格子相互作用,である. 本年度は,(1)トポロジカル異常に直接関係した,反磁性帯磁率のゼロエネルギーでのデルタ関数的な特異性の起源についての理論的考察と不規則性の効果の解明,さらにその多層グラフェンへの拡張を中心に研究を進めた.その結果,奇数層の多層グラフェンの電子状態は単層グラフェンと2層グラフェン,また,偶数層の多層グラフェンは2層グラフェンの重ね合わせとして理解できることを明らかにした.(2)対称性のクロスオーバでは弱局在効果についての研究,(3)量子ホール効果と磁場中の電気伝導では,ホール伝導率についての定式化を行い,(4)格子振動と電子-格子相互作用では,2層グラフェンの光学フォノンのエネルギーと幅のフェルミ準位による変化と磁気フォノン共鳴について考察した.
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