硫酸グリシンの強誘電軸に垂直な方向へ直流電場を長時間にわたり印加することによって、その強誘電軸方向の自発分極が減少した状態へ変わっていく速さは、温度が高いほど速いことなどを明らかにしてきた。硫酸グリシンに銅をドープした結晶では、自発分極の減少速度が速く、内部バイアス電場が大きいアラニンをドープした硫酸グリシンの結晶では、自発分極の減少速度が遅くなることが分かった。これらの結果から、直流電場の長時間にわたる印加により強誘電軸方向の自発分極が減少する原因は、電極からの真電荷の侵入による双極子の遮蔽ではないかと考えられる。このため不純物のために電気伝導度の大きい結晶では、電荷が侵入しやすいために速く自発分極が減少し、内部バイアス電場の大きい結晶では、電荷の侵入が妨げられるために自発分極の減少速度が遅くなると考えられる。ほかに、ロッシェル塩と亜リン酸グリシンでの長時間にわたる電場の印加効果を調べた。ロッシェル塩の単結晶でも自発分極が減少していくことを確認できたが、電場の印加方向によって自発分極がある値までしか減少しないことがあった。ロッシェル塩は電気伝導度が比較的高く、湿度に非常に敏感なので、実験がうまくできていない可能性がある。亜リン酸グリシンの単結晶では自発分極の減少を確認できなかった。しかし、電場の方向依存性を確認していないため、ロッシェル塩のように電場の方向によっては自発分極の影響を観測できる可能性がある。今後、測定環境をきちんと整備したうえで測定しなおす必要がある。
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