本研究で着目してきたのは、界面の運動法則が界面の局所的性質(形状や微視的構造)のみで決定され、界面の外の部分(非局所拡散場)によらない「界面律速モデル」に従う結晶成長・融解現象である。このように、結晶に特有な界面構造の異方性のみが界面の運動を支配する場合には、界面の発展方程式は1階の線形微分方程式になり、その解は簡単に得られる。すなわち、界面の法線成長速度関数として、結晶成長の素過程を考慮した、さまざまな非等方関数形を与えると、多様な成長・融解パターン解を得ることができる。この界面律速モデルは実験的には、熱平衡に近いところでゆっくり成長する場合、および速い成長でも周囲の拡散場が有効になる前の成長初期段階に適用できる。 本研究では、サファイアアンビルセル中の高圧下でサファイア基盤面に沿って平面的に成長および融解し、c軸が基盤面内にある氷結晶を用いて実験観測を行った。基盤面に垂直方向から観察すると、鏡もちの断面のように見える。平行な2枚の(0001)ファセットはピン止めされて動かないが、それらのエッジ間を滑らかにつなぐ曲面だけが移動する。得られた成長形と融解形を界面律速モデルで解析し、パターン形成について以下のことを明らかにした。 (1)ファセットと曲面が共存する滑らかな初期結晶は、小さい駆動力でゆっくりと成長を始めると、成長直後にファセット端に曲率の不連続点Shockが発生する。成長とともに曲面の平均曲率は減少する。一方、融解とともにその曲率は増加する。 (2)氷の成長形と融解形は非対称に発達する。成長形は曲面のみが伸びるため棒状になるのに対して、融解形はファセットも縮んで楕円形になる。成長形はファセットが発達するが、融解形は丸くなる。
|