本研究課題では、エネルギー分析型反射高速陽電子回折(RHEPD)装置を完成させ、各種の表面超構造のエネルギー損失スペクトルから得られる電子励起過程を解明し、これより表面電子状態に関する知見を得る。平成21年度前半には、Al(111)表面及びBi(001)表面について、陽電子と電子のエネルギー損失スペクトルの違いを仔細に調べた。その結果、Siの場合と同様に、全反射陽電子の表面プラズモン励起確率は、電子と比較して約2倍であることが判明した。これは、全反射陽電子が表面平行方向にチャンネルするため、実効的に表面電子との相互作用が強められることに起因している。平成21年度後半には、低温でパイエルス不安定性に起因した金属絶縁体転移を起こすSi(111)-In擬1次元原子鎖構造に着目して、全反射陽電子のエネルギー損失スペクトルを測定した。この系では、低温において電荷密度波が形成され、バンドギャップが発現するため、プラズモン励起スペクトルのエネルギー間隔が増大すると期待される。また、バンドギャップの分だけ個別電子励起エネルギーが増大すると考えられる。室温のエネルギー損失スペクトルから、プラズモン励起エネルギーは約9eVであり、平均励起回数は約3回であった。他方、70Kでエネルギー損失スペクトルを測定したところ、プラズモン励起エネルギーが僅ではあるが増大し、低エネルギー領域に表面プラズモン以外の損失ピークが発現することが見出された。今後、これらの変化をさらに詳細に調べるためには、測定装置のエネルギー分解能を絶縁相のバンドギャップと同程度(0.3eV程度)まで向上することが必要である。
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