高速陽電子(10~20keV)を物質表面に低角入射させた場合に起こる全反射過程において、表面素励起によるエネルギー損失過程を解明するために、エネルギー分析型の反射高速陽電子回折装置を開発した。障壁電極の仕様及び配置を最適化することで、電子集団振動(プラズモン)励起を観測する上で十分な分解能(4eV)を達成した。この分析装置を用いることで、Si(111)-7x7再構成表面、Al(111)表面、及び、Bi(001)表面について、全反射陽電子による表面プラズモンの多重励起効果の観測に初めて成功した。電子ビームによる同様の実験との比較から、全反射陽電子は電子の約2倍の表面プラズモンを励起することを見出した。陽電子が電子の2倍の表面プラズモンを励起する点については、それらの回折経路の違いによって説明できることが分かった。即ち、電子の場合、内部に進入した後に真空外に離脱するのに対して、陽電子は内部に進入することなく表面第一層をチャンネルして真空外に離脱する。このため陽電子は、電子よりも多くの表面プラズモンを励起することができる。また、全反射陽電子のビームスポットの空間拡がりと反射率の絶対値が、上の表面プラズモンの多重励起効果により矛盾なく説明できることが明らかになった。低温で金属絶縁体転移を起こすSi(111)/In超構造表面について、金属状態と絶縁体状態での全反射陽電子のエネルギー損失スペクトルを観測した。極低エネルギー領域に変化が認められたが、さらに詳しい解析のためには、エネルギー分解能の向上が必要であることが明らかになった。
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