低次兀糸における電子ドメインの光生成・成長過程の理論的研究の最終段階としてフォノン散乱の効果を考察した。拡張ハバードモデルのような微視的モデルでは十分大きなサイズの計算を行えないため、ドメイン自由度のみを集団座標として取り出し、そこにフォノン生成・消滅の項を相互作用として加えるモデルを新たに提案した。このモデルでは、フォノンはドメイン内部でのみ生成・消滅するが、ただし、ドメインの移動によりドメイン外部に取り残されることはあり得る。このようなモデルを用いて50サイトの系にフォノン励起を5個まで許す制限の元に、ドメインの可視光励起後の成長量子動力学を並進対称性を厳密に保存する方法で厳密に解き、ドメインサイズ分布やドメインの内部及び重心運動量分布などの時間発展を綿密に解析した。その結果として、(1)ドメイン成長に時間の経過とともにインコヒーレントな成分が現れ、それは1種の遅れ、あるいは、成長停止となって現れる、(2)そのインコヒーレント成分の主因としてはドメインの内部運動量のみならず、重心運動量の非ゼロ状態への有限確率の分布が重要であること、(3)上記(1)のような効果は実際の分子性結晶における現実的な物質パラメター(電子のトランスファーエネルギー、分子内振動振動数、電子格子相互作用)を用いて例えば20フェムト秒のパルス励起で100フェムト秒、すなわち、0.1ピコ秒程度の時間の後に明瞭に現れること、などの結果を得た。
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