銅酸化物高温超伝導体等の固有ジョセブソン多重接合で観測される協力的位相ダイナミクスを理論的に考察した。(1)微小接合系の低温で観測される巨視的量子トンネル効果に関しては、接合間にキャパシティブ相互作用とインダクティブ相互作用がある場合の理論的定式化を完成させた。接合間の結合が弱い弱結合領域では、サクセッシブトンネリングが主要なトンネル経路となることを示し、この効果により多重接合系で、エスケープ率が接合数の2乗に比例する異常増大が起きることを明らかにした。この結果は、ドイツのエルランゲン大学のグループの実験結果を説明するものである。また、多重接合系の位相差の量子論的挙動を解明するために、キャパシティブ結合がある少数接合系に対して、シュレーディンガー表示を用いたダイレクトな計算機シミュレーションを行った。このシミュレーションは、固有ジョセフソン多重接合系を量子デバイスに応用するための強力な手段を与えるものである。(2)固有ジョセフソン接合系で、最近、コヒーレントなテラヘルツ波の発振が観測された。本年度の研究では、この現象の解明にも取り組んだ。この系での電磁発振の機構を明らかにするため、位相差のダイナミクスに対する大規模計算機シミュレーションを行った。このシミュレーションにより、電圧状態でのジョセフソン振動が、接合系の幾何学的固有モードと共鳴する場合に強い発振が起きることを示した。さらに、接合内の電磁励起モードと真空中に放出される電磁波の強度分布も明らかにした。
|