本年度は、我々が世界記録の超伝導を観測したβ'-(BEDT-TTF)2ICl2と同型の電荷移動錯体であるβ'-(BEDSe-TTF)2ICI2とβ'-(BEDSe-TTF)2IBr2の物性を、昨年度に引き続き、研究した。これらについては、常圧及び低圧下での物性、キュービックアンビル型圧力発生装置を用いた8GPaまでの高圧下物性を議論した。得られた結果は、我々がここ数年、精力的に行ってきたBEDT-TTF塩の超高圧下物性研究で蓄積された実験結果と比較検討することにより、分子の違い、すなわち、分子軌道の違いが及ぼす超高圧下での伝導物性の振る舞いの違いについての議論を行った。 さらに、BEDTSe-TTF系と同様の強いダイマー構造を持ち、しかも同様に一次元伝導を示す、アクセプター型伝導体MEM(TCNQ)2の常圧下における磁性の研究、及び超高圧下物性研究を行った。この系とBEDT-TTF系物質やBEDSe-TTF系物質との比較研究は、ドナーとアクセプターの違いが高圧下物性にどのように影響するかを議論できるため、大変興味深い。得られた結果を総括すると、アクセプター系物質においては、ドナー系物質で見られたような超高圧下での抵抗の急激な減少は見られなかった。この事実は、一次元ダイマー構造を持つ系においては、アクセプター系物質を高圧印加によって金属化することは困難であるとの結論を得た。これは、分子鎖間の相互作用を高圧印加で増強することは、LOMOの性質上困難であるからである。 以上に結果は、有機物質の超高圧下物性研究に重要な知見を与えるものであり、さらに分析を進め、より高い転移温度を持つ有機超伝導体の実現に向けて努力したい。
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