研究概要 |
交付申請書に記載した「研究実施計画」において,今年度は以下の知見を得た。 1.更なるNMR感度の向上および回転機構の導入による試料精密制御の実現 一般には,既に4K以上で稼働している試料回転機構を,希釈冷凍機に設置することでNMR感度の向上と試料角度の精密制御を両立しうると考えると考えるのが妥当である。しかし昨年度, 0.1Kよりも1.7Kの方が明らかにNMR感度が高く,スペクトルも先鋭であるとの知見を得た。これを受けて今年度は,通常の冷凍機に試料回転機構を設置し,その最低到達温度1.7Kにおいて0.1°の精度で試料を制御することを実現した。これにより,希釈冷凍機に試料回転機構を設置するという,より技術的に困難な過程に費やす時間を割愛し,効率的に感度向上と試料の精密制御を実現することが可能となった。今年度予定していた,薄膜による超伝導揺らぎ効果については,引き続き来年度の課題とする。 2.NMRスペクトルに対するシミュレーションによる局所磁場の「勾配」の評価 これまで得られた1-qubit構造のNMRスペクトルでは,微小磁石がつくる局所磁場の大きさそのものは比較的容易にわかるが,量子計算にむけてより重要となる磁場の「勾配」が評価なされていなかった。今年度は,有限要素法による3次元磁場シミュレーションによって,フィッティング・パラメータを一切用いることなく,得られたNMRスペクトルを定量的に再現することに成功した。この結果,アルミ核スピンからなる20ナノメートルの超薄膜層における局所磁場の「勾配」を評価することに成功した。この値は,ナノスケールの空間分解能を得るのに十分であることも明らかにした。
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