物性の基本である結晶型を決定するX線測定を1K以下で行えるところは世界でもどこにもなかったため、金沢大学超低温研究室では自分たちで超低温X線解析装置を開発した。この数年それを用いて低温で現れるいろいろな相転移の研究を行ってきた。X線を用いて、単に低温相における結晶型の決定だけではなく、X線反射ピークの半値幅、積分強度、格子定数などの温度変化を精密に測定することにより、相転移に対する興味ある新しい情報を得ている。 PrOs_4Sb_<12>:充填スクッテルダイト化合物で、超伝導転移温度Tc=1.85Kを持つ重い電子超伝導体。超伝導転移温度Tc近傍の1.8Kで積分強度に小さなピークが見られた。この物質はまたOs原子とSb原子からなるかごの中でPr原子がオフセンターの位置をラットリング運動することが知られており、このラットリング運動が超伝導と関係していると考えられている。リートベルト解析を行うことにより、Pr原子が0.18Kの低温でも約0.1Aの振幅で動いていることがわかった。また0.5K以下で積分強度が急激に増加し、格子定数も一次転移的に増大することを見出した。 YBa_2Cu_3O_x:層状のCuO_2面を持つ高温超伝導物質。既に超伝導転移温度Tc=約90Kを持つ試料では積分強度、格子定数の変化が見られ、またスピンギャップ温度T^*においても積分強度、格子定数に変化が見られていたが、このような試料をアニール処理をして酸素が抜けたアンダードープ域のTc=約60Kの試料ではTcあるいはT^*において格子定数に変化が観測されなかった。
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