研究概要 |
(1)振幅モードスピン波の理論とその観測可能性 当初の研究計画の通り,振幅モードスピン波と中性子散乱強度の理論を構築した。スピンダイマー系だけでなく,理論を-軸異方性のある整数スピン系へ適用した。異方性を容易軸型から容易面型へ自由に調節できる定式化を用いて,それに伴う励起モードの変化を調べた。その結果,次のことが明らかになった。まず,容易軸型の場合には局所的な2重項-1重項状態が実現する。基底2重項の自由度のため低温で磁気秩序を示し,秩序化した磁気モーメントは大きくなる。そのため,モーメントの大きさが揺らぐ振幅モードは高エネルギー域に位置し,中性子散乱強度はゼロにあることがわかった。この結果は異方性が無い場合にも成り立ち,通常の磁性体において振幅モードが観測できない理由が明確となった。一方,容易面型の場合には局所的な1重項-2重項が形成され,基底1重項のため秩序化する磁気モーメントは縮む。それによって,振幅モードは低エネルギー側へ移り,中性子散乱強度も有限に現れる。容易面型の異方性を強くすると磁気モーメントはさらに縮み,臨界点以上では磁気秩序が壊されてしまう。この量子臨界点付近では,振幅モードのエネルギーは低くなり,中性子散乱強度はそれに反比例して強くなることを明らかにした。このように,系統的に磁気異方性をコントロールして磁気励起を調べ,通常の磁性体で観測できない振幅モードがどのように観測できるようになるか,その全貌を始めて明らかにした。この成果は,J.Phys.Soc.Jpn.Vol.76(2007)073709(4 pages)として出版されている。 (2)磁気ラマン散乱と振幅モード 当初の計画には入っていなかったが,磁気ラマン散乱と振幅モードの関係について調べ,ラマン散乱は振幅モードの観測に適した実験手段であることを明らかにした。スピンダイマー系に圧力を加えて秩序化した場合,中性子散乱とは逆に,臨界圧力以上でラマン散乱強度が増大することを示した。この研究は上智大学の実験グループとの共同研究という形で進められ,その成果はJ.Phys.Soc.Jpn.77(2008)033702(4 pages)として出版されている。
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