2009年度は当初の計画通り、複数のスピン(マルチスピン)が基本単位となって相互作用する系の磁気励起について、振幅モードスピン波の観点から研究をおこなった。そのため、このような特徴をもつ典型的な物質としてCu_2Fe_2Ge_4O_<13>を具体的に取り上げ、磁気励起を詳しく調べた。この物質では4つのスピンが基本単位を構成する。その中にはCuによるS=1/2スピンが2つあり、それらが強く結合してダイマーを形成している。また、FeによるS=5/2スピン(モノマー)が2つあり、それらがCuダイマーに弱く結合しているという特徴がある。Cu_2Fe_2Ge_40_<13>は、このようなマルチスピンが互いに相互作用している系として捉えることができる。マルチスピンを1つの原子のように扱うため、マルチスピン部分に対する構造因子を導入し、拡張されたホルシュタイン・プリマコフ理論をマルチスピンのスピン多重項に適用して動的スピン相関関数を計算した。その結果、低エネルギー領域ではFeのモノマー部分を反映した通常のスピン波励起があり、実験結果を定量的に説明できることがわかった。これに加えて、高エネルギー側にCuダイマーを反映した励起があり、この中に振幅モードが通常のスピン波励起と同程度の中性子強度で現れていることがわかった。また、ラマン散乱強度を計算し、ラマン散乱が振幅モードを選択的に観測することも示した。マルチスピンが相互作用する系では、量子効果によって秩序化したモーメントが極端に縮む場合がある。その際には振幅モードが低エネルギー領域に出現し、中性子散乱・ラマン散乱に十分な強度を持つことがわかった。振幅モードスピン波の観点から磁気励起の新しい側面を明らかにする本研究は、今後、このような系の磁気励起を解析する際に有用である。
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